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岐阜地方裁判所 平成元年(行ウ)2号 判決

岐阜県各務原市蘇原申子町一丁目三番地

原告

小林幸市

右訴訟代理人弁護士

大場常夫

岐阜市加納清水町四丁目二二番地の二

被告

岐阜南税務署長 安藤時和

右指定代理人

長谷川恭弘

舟元英一

青山祥男

服部勝

谷口実

後藤朝毅

谷口好旦

吉野満

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  被告が原告に対し昭和六三年二月一五日付けでした原告の昭和六一年分所得税についての更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  争いのない事実

1  原告は、被告に対し、別紙課税経過表のとおり、昭和六一年分の所得のうち、分離課税の長期譲渡所得金額を三八万九五〇〇円とした確定申告をしたところ、被告は、昭和六三年二月一五日付けで、同所得金額を一億九〇〇〇万円とする更正処分をするとともに、過少申告加算税五五七万三〇〇〇円の賦課決定処分をした(以下この両処分を「本件各処分」という。)。

2  そこで原告は、被告に対して、本件各処分の取消しを求めて異議申立てをしたが、被告は、昭和六三年七月六日付け異議決定書をもって棄却した。そこで、原告は、昭和六三年七月二六日、国税不服審判所長に本件各処分の取消しを求めて審査請求したが、国税不服審査所長は、平成元年三月一日付け裁決書をもって、審査請求をいずれも棄却する裁決をした。

3  被告の本件各処分の経緯と次のとおりである。

(一) 原告は、昭和六一年三月三日、貸付けの用に供していた別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件譲渡土地」という。)を訴外丸三建機株式会社(以下「丸三建機」という。)へ二億五〇〇〇万円で売却したが、これに先立ち、昭和六〇年三月二〇日、訴外小林冨美子から別紙物件目録(二)記載の土地(以下「本件取得土地」という。)を一億八六〇〇万円で取得し、さらに、昭和六一年一二月一日には、原告が代表者をしている訴外幸伸金属株式会社(以下「幸伸金属」という。)から油圧切断機(以下「本件機械」という。)を五〇〇〇万円で取得した。

(二) 原告は、昭和六一年分所得税の確定申告において、本件取得土地及び本件機械が本件譲渡土地の買換資産であり、本件譲渡土地の譲渡所得について、租税特別措置法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの。以下「措置法」という。)三七条所定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得課税の特例(以下「買換えの特例」という。)の適用があるものとして、分離課税の長期譲渡所得の申告をした。

(三) 被告は、これに対して、本件譲渡土地の買換資産としては、本件機械のみしか認めず、本件取得土地と本件譲渡土地との組合わせについては、買換えの特例の対象にならないとして、別紙譲渡所得計算明細書記載のとおり、その譲渡所得を一億九〇〇〇万円と更正し、かつこれを基礎として前示過少申告加算税の賦課決定処分をした。本件譲渡土地からは、措置法の買換えの特例の適用としては、同法三七条一項中、七号及び一四号の適用が考えられたところ、本件取得土地が七号にいう誘致地区に当たらないし、また、一四号は減価償却資産及び船舶をその対象とするところから、本件譲渡土地と本件取得土地との組合せでは措置法三七条の買換え特例の適用は受けられないからである。

二  争点

1  原告の主張

(一) 原告が本件譲渡土地を売却した経緯。

(1) 原告は、昭和六一年一月末か二月上旬ごろ、本件譲渡土地の譲渡にかかる税金の相談のために岐阜南税務署を訪れ、一階のカウンター越しに応待した男性職員(三〇歳前後で長身の男前で紺色の背広を着ていた。以下「担当職員」という。)に対し、「各務原の幸伸金属の小林です。」と名乗った上、「山林を売りたいが、買換資産の特例の適用はできるか。」と質問したところ、担当職員は、「山林は美山町又は群上以北はできるが、各務原市の山林はできない。」旨応えた。そこで、更に原告は、「地目は山林であるが、採石の作業場になっているので所得が上がっている場合はどうか。」と質問したところ、担当職員は、机の資料を見ながら、「各務原市の山林でも所得が上がっている証明があれば買換資産となる。」旨応えた。

(2) 原告は、右のように担当職員から各務原市内の山林であっても所得のあがっている証明があれば買換え資産となるから、このような土地を譲渡しても他の資産を取得すれば、譲渡した資産の所得に対しては課税されないとの教示を受けたものであり、しかも買換取得すべき資産については何ら限定を受けていないから特別な制約がないものとの教示を受けたというべきである。原告は、このように本件譲渡土地の譲渡につき買換えの特例の適用がある旨の教示を受け、右譲渡について譲渡所得税が課せられないことを信頼したため、本件譲渡土地を売却した(原告は、当時他にも処分に適する資産を有しており、多額の譲渡所得税が賦課されるならば、本件譲渡土地を処分することはなかったのである。)。

(二) 右の事実関係の下では、被告が本件各処分をすることは信義則上許されず、したがって、本件各処分は取り消されるべきである。

(1) 信義則の原則、あるいは禁反言の原則が税法の属する公法に適用されることは判例、通説の認めるところである。そして、公法であるという性質から、その適用には慎重性が求められるとしても、税法関係においては、一般に、〈1〉税務官庁が納税者に対して信頼の対象となる公的見解を表示したこと、〈2〉納税者がその表示を信頼し、その信頼過程において責められるべき事由を有しないこと、〈3〉納税者がその信頼に基づき何らかの行為をしたこと、〈4〉税務官庁が当初の信頼の対象となる公的見解の表示に反する行政処分をしたこと及び〈5〉納税者がその行政処分により救済に価する経済的不利益を被ったことの各要件が充足されれば、右の原則を適用すべきものと解されている。

(2) 本件においては、〈1〉原告の質問とこれに対する担当職員の教示は、単なる相当職員の私的見解の表明に止まることが許されない被告としての公的教示であり、その内容の具体性、明確性、個別性から公的見解の表明であるといわざるをえないこと、〈2〉税務に関する専門の国家機関に相談に赴いた原告が担当職員の前示教示を信頼したことに何ら責められる事由がないこと、〈3〉原告が本件譲渡資産を譲渡したのは、担当職員の右教示に従ったもので、右教示と譲渡との間に直接の因果関係が存すること、〈4〉被告において右教示に反して本件各処分をしたこと、〈5〉被告がした本件各処分は、更正及び過少申告加算税賦課を合計して六二三〇万五三〇〇円にも達するものであり、特段の理由のない限り、二億五〇〇〇万円の売却価格に対し六二三〇万五三〇〇円もの高額な課税が予定される処分をすることはありえないところであるから、前示教示により原告が著しい不利益を被ったこと、がいずれも明らかである。

2  被告の主張

(一) 原告が岐阜南税務署において担当職員に相談をした事実は否認する。

被告の調査によっても、原告主張の当時の岐阜南税務署の職員に原告から税務相談を受けた者はいない。

(二) 仮に、原告が岐阜南税務署において税務相談をしたとしても、原告は、本件取得土地及び本件譲渡土地に関して具体的な説明をした上で相談をしておらず、相当職員においても、具体的な本件事例の下で措置法の適用がある旨の回答はしていない。

およそ税務相談は、税務当局が税務行政の円滑な推進という行政目的を達成するために、税法の解釈とその適用、申告手続等について納税者等に知識を供与するために行っているものであるから、申告後の調査等とは異なり、税務相談にあっては、いたずらに事実等を追及し、若しくはその意思に反して情報聴取を行うことはなし得ないのである。したがって、結局は相談者の提示する資料、申立ての範囲内でのみ応答ぜざるを得ないのであって、その意味において、税務相談には一定の限界があるべきであり、税務相談の責務を無限定に要求するのは誤りである。そして、税務相談のうちでも、納税相談は、多数の納税者を相手とし、直接的に右納税者の課税標準を計算・算定し納付税額を算出するものであるのに対して、一般的な税務相談は、直接的に納付税額を導き出すためのものではないので、申告についての形式的・手続的要件についての相談ないし仮定的な状況についての相談がされた場合には、その回答も仮定的もしくは概略的なものにならざるを得ないのである。

これを本件において、原告が税務相談時の状況として供述するところによって検討しても、原告の質問というのは、結局、その質問は前記買換えの特例の前提条件の一つである、譲渡資産が法三七条の規定する事業用資産に該当するか否かについて質問を発したものと認められ、そうであれば、被告の職員は原告の質問について的確に回答していると認められるのである(現に原告は本件申告の際にその一部である油圧切断機について、適法に買換えの特例の適用を受けているのである。)。そして原告が担当職員に対して、右一般論から踏み込んだ個々具体的な事実・状況を何ら説明していないことは明らかであり、原告が主張する相談は、担当職員が一般論に終始せざるをえず、事実関係に即した的を得た回答はなし得ないものである。原告は、本件譲渡土地及び本件取得土地の所在地並びに事実又は事業に準ずるものの用に供されていることの具体的な説明をしていないから、本件譲渡土地及び本件取得土地に係る特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得課税の特例の規定の適用の有無については、回答すらなし得ないものなのである。したがって、本件について措置法の適用があるとの回答を得た旨の原告の主張は、明らかに失当であり、何らかの回答があったとしても、それは具体的な質問に対する具体的な回答ではなく、抽象的な質問に対する一般的な回答にすぎないのであるから、それによって被告の課税処分が信義則に反し違法となることはない。

(三) 原告が本件譲渡土地を売却した事情

原告は、訴外株式会社大垣共立銀行各務原支店から借入金の返済を強く求められており、他に返済原資が存しないこと、及び本件譲渡土地の付近住民から粉塵公害についての苦情が出ていたことなどから、措置法の適用の有無にかかわらちず本件譲渡土地を売却せざるをえなかったものである。

すなわち、本件譲渡土地の一部には、原告が代表取締役となっている幸伸金属の建設廃棄物粉砕のプラントがあり、付近住民から粉塵公害についての苦情が各務原市役所に持ち込まれ、そのため原告は、同市の仲介勧告により本件譲渡土地を売却することとなったものである(乙第一二号証)。

また、原告は、原告及び幸伸金属の主取引銀行である大垣共立銀行各務原支店から本件取得土地の資金二億円を幸伸金属を経由して借り入れており、本件取得土地の取得日である昭和六〇年三月二〇日から本件譲渡土地を売却した昭和六一年三月三日までの間の右借入に係る金利の支払額は、一一七四万一〇〇〇円に及んでおり(乙第八号証の一)、原告の昭和六一年分の総所得金額が四七一万一四〇〇円であることから明らかなように(乙第七号証の二)、借入元金はおろか借入金利さえも支払える状況ではなかったのである。加えて、幸伸金属も業績が良好とはいえない法人であって、昭和六一年一月一日から同年一二月三一日までの事実年度(以下「昭和六一年一二月期」という。)における固定資産及び固定負債の状況は、固定資産が、ほとんど什器関係と機械関係だけで土地はなく、一億一四〇〇万円であってのに対し、固定負債は六億九四〇〇万円という負債超過の状態にあり、同期の所得金額も四五万五〇〇〇円と僅少で、法人税額にいたっては一四万一〇〇〇円ほどであり、前期の昭和六〇年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の固定資産及び固定負債の金額も昭和六一年一二月期と大差なく、同期と同様固定負債が超過する状態であった。そして、このような状況の下で、大垣共立銀行各務原支店は、昭和六〇年一二月二七日、同行本店融資部から、幸伸金属の企業体力に疑問があり、融資に対する返済財源の資力に欠け、融資承認の条件を無視した貸付けである上、貸付過多であるとの理由で、同支店の基本的取組姿勢を疑問とし、昭和六〇年中に原告所有の資産の売却により二億一六〇〇万円を回収することを促し、その報告を求める旨の貸出先案件照会状(乙第一三号証)を受けたから、同支店が原告に対し、右債務の返済を迫っていたことは明らかである。一方、幸伸金属も、大垣共立銀行各務原支店に対する返済方法として、本件取得土地を担保として銀行からの借入金によって返済するか、それとも原告所有の他の物件を売却した上で返済するつもりでいたから、結局、原告は、自己の所有する不動産等の物件を売却した金員で、幸伸金属を経由して右各務原支店に対する借入金の返済をせざるを得なかったのである。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の証拠に関する目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  成立に争いのない乙第二号証、第九号証の一ないし五、第一〇号証の一、二、証人森下学の証言により成立を認める乙第四、第六、第一一号証、弁論の全趣旨により成立を認める乙第一二、第一三号証、証人森下学の証言及び原告本人尋問の結果(第一、第二回)並びに弁論の全趣旨を併せると、次の事実が認められる。

1  原告は、農業を営むとともに、雇者住居地に所在地を置く鉄屑の加工を業務内容とする幸伸金属の代表取締役をしている。

2  原告が本件取得土地を買い受けた経緯

本件取得土地は、原告のいとこである亡小林登喜男の妻小林冨美子が昭和五九年九月二日に右登喜男から相続により取得したものであった。そして、原告は、右登喜男のじゅうたん加工事業による借入金の返済資金の捻出に苦慮していた右冨美子から、昭和六〇年三月二〇日、本件取得土地を代金一億八六〇〇万円で買い受けたが、右買受資金は、幸伸金属が主取引銀行である大垣共立銀行各務原支店から二億円を借りいれた上、原告が幸伸金属から更に右金員を借り入れるという形式をとって工面したものであった。

3  原告が本件譲渡土地を売却した経緯

(一)  原告が税務相談に行くまで

大垣銀行各務原支店は、前記のとおり、幸伸金属に対し二億円を貸し付けたが、その結果、同銀行の内部基準からすると、幸伸金属に対して貸付け過多の状況になったため、同銀行本店融資部において、同年末までに、同銀行各務原支店に対して、幸伸金属に資産売却を促すなどして、二億一六〇〇万円の貸金を回収するように指示したが、右期日までにその返済はされなかった。一方、本件譲渡土地については、その一部に幸伸金属の廃棄物粉砕のブラントがあり、付近住民から粉塵公害についての苦情が各務原市に持ち込まれるなどしていたため、同市がその仲介に乗り出し、同市の仲介の結果、右プラントのための代替地が確保できることになったので、原告において、本件譲渡土地の利用目的がなくなった。そこで、こうした事情を踏まえて、大垣共立銀行各務原支店の支店長において、本件譲渡物件を、その一部を原告から賃借して使用していた丸三建機(平成元年一一月一日に岐阜小松株式会社と商号変更)に売却する斡旋を行なうことになったが、原告は、税金の減免措置である買換えの特例制度をかねてから一応知っていたこともあり、本件譲渡土地を売却するにあたって、右特例制度について尋ねるため、税務署を訪れることにした。なお、原告は、税理士加藤茂に幸伸金属の顧問を依頼しており、自己の確定申告も同税理士に依頼していたが、本件譲渡土地の売却に関して右税理士に税法上の問題について相談するようなことはしなかった。

(二)  税務相談の状況

原告は、昭和六一年二月ごろ、岐阜市加納清水長四丁目二二番地の二所在の岐阜南税務署を訪れた。同署には、税務相談を専門とする窓口がなかったことから、原告は、一階の入口から入ってすぐのところのカウンターにいた三〇歳前後の男性職員(担当職員)に声をかけ、相談に応じてもらうことにした。原告は、担当職員に対し、各務原市蘇原の小林であると名乗った上、取得土地について、身内に不幸があって引き取った土地がある旨簡単に説明した上、各務原市の山林を売却するについて買換資産の特例の適用はあるかは尋ねたところ、担当職員は、各務原の山林はできない旨応えた。そこで、原告は、第三者に賃貸し収入が上がっている土地を譲渡したときに右特例の適用が認められるかと重ねて質問したところ、担当職員は、事業用資産の買換えの特例の適用については、所得が上がっている証明があれば買換資産となる旨応えた。

右やりとりは一〇分間ほどの立ち話で終ったが、原告は、担当職員の右応答から、本件譲渡土地を丸三建機に売却してもその代金に譲渡税はかからないものと速断し、更に資料を呈示して具体的に尋ねることもなく、すぐに同税務署を退出した。

(三)  税務相談後の状況

原告は、前記岐阜南税務署における相談(以下「本件税務相談」という。)後の昭和六一年三月三日、大垣共立銀行各務原支店において、丸三建機との間で本件譲渡土地を代金二億五〇〇〇万円で売買する契約を締結した上、同年三月三〇日、右売買代金をもって、大垣共立銀行に対する本件取得土地購入の際の借入金を返済した。

二  右認定に反し、原告は、原告において、本件譲渡土地を売却するにあたり、大垣共立銀行から返済を迫られた事実はなく、また、譲渡土地について各務原市の斡旋があったが、強制力を伴うものではないから、本件譲渡土地の売却はあくまでも担当職員から右教示を受けたことによって決意したものであると供述する。しかしながら、乙第一三号証(大垣共立銀行の貸出先案件照会状)によると、原告は同銀行各務原支店に対して、借入金の返済を早急にしなければならない立場にあったことが認められ、このことは、同支店の支店長が本件譲渡土地の売却の斡旋をしたこと及びその契約が同支店で行われたことからも明らかである。また、本件譲渡土地上にあった幸伸金属の鉄筋コンクリート屑粉砕のプラントの移転について、各務原市から他の場所を斡旋されるなどして移転を迫られていたことが原告が本件譲渡土地を売却する動機の大きな要因であったことは、原告が丸三建機を相手に平成元年五月二九日に申立てた調停申立書(乙第一二号証)において、「申立人(原告)は、各務原市の仲介勧告によって、本件土地(本件譲渡土地)に替る置場を他に確保できることになったことを縁由として、本件土地(本件譲渡土地)を相手方(丸三建機)に売却する決意をした。」と主張していることから明らかである。

三  ところで、租税法規に適合する課税処分について信義則の法理の適用により違法を考え得るのは、納税者間の平等公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合でなければならず、右特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示し、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ右表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものかどうか、納税者が税務官庁の右表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責に帰すべき事由がないかどうか、とうい点の考慮が不可欠であると解されるところ(最高裁判所昭和六二年一〇月三〇日第三小法廷判決・最高裁判所裁判集民事一五二号九三頁参照)、先に認定した事実関係に基づけば、本件税務相談における岐阜南税務署の担当職員の原告に対する回答は、本件譲渡土地の売却が、買換えの特例の対象になり得ることを一般論として回答したものにすぎず、取得物件の如何を問わず本件譲渡土地を売却することによって買換えの特例の適用が受けられることを具体的に明示したものではない上、原告が本件譲渡土地を丸三建機に売却したのは、大垣共立銀行に対する返済資金を工面する必要と各務原市の仲介勧告を縁由としているから、更に審究するまでもなく、被告のした本件各処分に信義則に反する違法の廉は存しないもといわなければならない。

四  以上の次第で、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することにし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉田宏 裁判官 三宅俊一郎 裁判官 浅見健次郎)

別表

課税経過表

〈省略〉

別紙

〈省略〉

別紙

譲渡所得計算書明細書

〈省略〉

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